「感情が出てこない」「泣けない」――抑うつ状態における“感情鈍麻”の正体とは?

「本当は悲しいのに泣けない」「自分の感情がよく分からない」と感じたことはありませんか?これは“感情鈍麻”という状態で、うつ病や適応障害などの抑うつ状態に伴って現れることがあります。本記事では、その原因や脳内メカニズム、心療内科での対応方法まで詳しく解説します。

12 April, 2025

「泣けない」「感情が動かない」――その正体は“感情鈍麻”

うつ状態にある方の中には、「悲しいニュースを見ても泣けない」「何をしても心が動かない」「感情が空っぽのように感じる」といった訴えをする方が多くいます。これは**感情鈍麻(emotional blunting)**と呼ばれる状態で、うつ病や適応障害、双極性障害など、心の不調にしばしば見られる現象です。

単なる「気分が沈む」だけではなく、「感情そのものを感じにくくなる」というこの状態は、患者本人にとって非常に不安を伴う症状でもあります。


感情鈍麻はなぜ起こるのか?その脳内メカニズム

感情鈍麻の背景には、脳の中での神経伝達物質の働きの低下が関係しています。

● セロトニン・ドパミンの低下

うつ状態では、セロトニンやドパミンなど、感情・報酬系に関与する神経伝達物質が低下します。これにより、「うれしい」「楽しい」「悲しい」といった感情の起伏が起こりにくくなり、結果的に“感情が湧いてこない”状態になります。

● 前頭前野と扁桃体の連携低下

脳の“感情の司令塔”とも言える扁桃体と、それを調整する前頭前野の連携が弱まることで、感情への反応が過度に抑えられてしまうとも言われています。これは、自律的な“脳の防御反応”としても捉えられます。


薬の副作用で感情が鈍くなることも?

抗うつ薬、とくに**SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)**を使用している患者さんの一部にも、「感情が平坦になる」「涙が出なくなった」といった訴えが出ることがあります。

これは薬剤の副作用のひとつとして知られており、“emotional blunting”の名称で欧米の精神科領域でも議論されています。もちろんすべての人に起こるわけではありませんが、薬剤の調整が必要となる場合もあります。


患者さんが抱えやすい「自己否定感」

感情鈍麻の患者さんが最も苦しむのは、「自分は冷たい人間なのではないか」「本当に病気なのか分からない」といった自己否定や孤立感です。

これは病状によって脳の働きが一時的に変化していることが原因であり、決してその人の性格の問題ではありません。また、症状が回復するにつれて、感情が少しずつ戻ってくるケースが多くみられます。


心療内科での対応と治療

当院「新宿駅 内科・心療内科クリニック」でも、「感情がわかない」「泣けない」といった悩みで受診される患者さんは少なくありません。

● 治療アプローチは多面的に

  • 薬物療法:抗うつ薬や抗不安薬の調整を行い、脳内の神経伝達物質のバランスを整える
  • 心理療法:感情を丁寧に拾い直すカウンセリングや認知行動療法(CBT)
  • 環境調整:過剰なストレス因子の除去や、休職の検討など
  • “回復の予告”:感情が戻るまでに時間がかかることを説明し、安心して経過を待てるようにする

● 医師の側からのメッセージが大切

「感情が出てこないのはあなたのせいではない」という言葉は、患者さんにとって非常に大きな意味を持ちます。病状の理解と共感を得られることで、治療への信頼が深まりやすくなります。


まとめ:泣けないのは「心が壊れたから」ではない

感情鈍麻は、心の不調が脳の働きに影響を及ぼした結果であり、「壊れてしまった」「性格の問題」といった自己否定はまったく必要ありません。

症状は一進一退することもありますが、丁寧なケアと時間の経過によって、感情は必ず少しずつ戻ってきます。
「泣けない」「何も感じない」と悩んでいる方は、ひとりで抱え込まず、ぜひ専門機関に相談してください。

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