パニック障害の急性期対応とセルフケア
パニック障害の急性期における対応方法とセルフケアのポイントについて、専門的な視点で詳述します。急性期症状の病態生理、発作時の適切な対応策、セルフケア方法、予防策、心療内科での治療戦略を多角的に解説します。

パニック障害とは
パニック障害は、不安障害群に分類され、突発的かつ強烈な恐怖感や不安感が繰り返し発生する疾患です。発作は予測不可能なタイミングで起こり、身体的症状と心理的症状が同時に現れます。発作そのものは10~30分程度でピークを迎え、多くは60分以内に自然に軽減します。
病態生理
パニック障害の発症メカニズムには、複数の生物学的および心理的要因が関与しています。生物学的には、扁桃体の過活動や前頭前野の機能低下が示唆されており、神経伝達物質としてはセロトニン、ノルアドレナリン、ガンマアミノ酪酸(GABA)の異常が関連しています。また、呼吸調節の異常により呼吸性アルカローシスが誘発され、これがさらなる不安を引き起こす悪循環となります。心理的要因としては、ストレス因子や過去のトラウマが発症リスクを高めるとされています。
リスク因子と誘因
パニック障害の発症リスクには以下の要因が含まれます。
- 遺伝的素因:家族歴がある場合に発症リスクが上昇
- パーソナリティ特性:不安感が強く、回避傾向が強い場合
- 慢性的ストレス:職場環境や家庭内のストレスが引き金となる
- 身体的疾患:甲状腺機能亢進症や低血糖発作が類似症状を引き起こす
- 薬物やアルコール依存:ベンゾジアゼピン離脱後のリバウンド症状
急性期症状の特徴
急性期におけるパニック発作の症状は多様で、個々に異なる反応が見られます。以下に代表的な症状を示します。
- 動悸・心悸亢進(交感神経の過活動)
- 呼吸困難・過呼吸(呼吸性アルカローシスの可能性)
- 胸痛・胸部圧迫感(心筋虚血との鑑別が必要)
- 発汗・震え(カテコラミン過剰分泌)
- めまい・ふらつき(血流不全による自律神経失調)
- 非現実感・離人感(急激な不安による解離症状)
- 死の恐怖・失控感(心理的パニックの典型)
急性期対応のポイント
パニック発作が発生した際には、速やかに安全な場所で安静を確保し、適切な対応を取ることが重要です。
呼吸管理
呼吸過多により呼吸性アルカローシスが進行すると、手足のしびれや筋攣縮が出現します。以下の方法が有効です。
- 紙袋呼吸法:過換気を防止し、二酸化炭素濃度を安定化させます。ただし、低酸素血症が疑われる場合には慎重を要します。
- 腹式呼吸法:自律神経を整え、交感神経活動を抑制します。
認知再構成
発作時には、強烈な死の恐怖が襲いますが、"発作は一時的であり、命に関わらない"という認識を持つことが重要です。専門家による認知行動療法(CBT)での訓練が有用です。
発作後のフォローアップ
急性期が収まった後には、再発予防のためのフォローアップが重要です。診療内科では、以下のような取り組みを行います。
- 発作日記:発作の頻度、強度、誘因を記録し、治療方針を検討する資料とする
- 心理教育:発作に対する正しい理解を促し、恐怖感を軽減する
- 家族支援:患者本人だけでなく家族への教育も重視し、サポート体制を構築
心療内科での治療戦略
薬物療法
- SSRI(パロキセチン、セルトラリン):長期的な不安抑制に有効。
- ベンゾジアゼピン系薬(アルプラゾラム、ロラゼパム):急性期対応に限定使用。依存リスクに留意が必要です。
- 三環系抗うつ薬(イミプラミン):SSRIが無効な場合に使用を検討
精神療法
- 認知行動療法(CBT):発作に対する誤認を修正し、予期不安を軽減。
- 曝露療法:発作が起こる場面を段階的に想定し、耐性を高める。
- マインドフルネス:現在に意識を向け、過度な不安を軽減する技法
パニック障害は適切な対応と治療により、症状を管理し社会復帰が可能です。急性期の対応を確実に身につけ、心療内科での継続治療を検討しましょう。