発達性トラウマとは?大人になってからの不安・生きづらさとの関係性を解説
発達性トラウマは、幼少期の継続的な心理的ストレスが脳や心の発達に影響を及ぼす状態です。不安、抑うつ、自己否定感などの原因がわからないまま大人になり、生きづらさを感じている人は、このトラウマが背景にあるかもしれません。この記事では、発達性トラウマのメカニズムと症状、診断、治療について専門的に解説します。

発達性トラウマとは何か?
「発達性トラウマ(Developmental Trauma)」とは、幼少期に長期間にわたり、継続的・繰り返し起こるストレスやトラウマ体験(虐待、ネグレクト、感情的な無視など)を受けたことで、心と脳の発達に影響を受けた状態を指します。これはPTSD(心的外傷後ストレス障害)とは異なり、「慢性的なストレス環境」によって形成されるものです。
発達性トラウマと「愛着障害」「複雑性PTSD」との違い
項目 | 発達性トラウマ | 愛着障害 | 複雑性PTSD |
---|---|---|---|
原因 | 幼少期の慢性的トラウマ体験 | 養育者との不安定な関係 | 虐待・拷問・DVなど長期のトラウマ |
発症時期 | 発達期(0〜12歳ごろ) | 幼児期~小児期 | 思春期〜成人以降 |
主な症状 | 不安、自己否定、解離、感情調整困難 | 対人不安、過度な依存または回避 | フラッシュバック、過覚醒 |
症状の特徴:大人になって現れる「心の痛み」
発達性トラウマは、思春期・成人になってから以下のようなかたちで現れることがあります:
- 対人関係の不安(人が怖い、距離感がつかめない)
- 強い自己否定感(自分には価値がないと感じる)
- 感情調整の困難(怒りっぽさ、気分の不安定さ)
- 身体化症状(頭痛、腹痛、慢性疲労)
- 自傷行為や依存傾向(過食、アルコール、ギャンブルなど)
脳への影響と発達のゆがみ
発達期における慢性的なストレスは、以下のような脳の機能に影響を与えることが報告されています:
- 扁桃体の過活性化:過剰な警戒心、恐怖反応の強さ
- 前頭前野の機能低下:感情の抑制や論理的判断の困難さ
- 海馬の萎縮:記憶・ストレス調整機能の障害
診断はどう行うのか?
発達性トラウマは日本の診断基準(DSM-5やICD-11)には明確な診断項目がなく、「愛着障害」「複雑性PTSD」「境界性パーソナリティ障害」などの診断名で表現されることが多いのが現状です。そのため、以下のような丁寧な問診と経過観察が重要です。
- 幼少期の家庭環境・養育歴の聴取
- 現在の対人関係や情緒の安定性の確認
- 解離症状や身体症状の有無
治療アプローチ:トラウマに「気づく」ことから始まる
発達性トラウマの治療では、以下のような心理療法・環境調整が中心となります。
主な治療法
- トラウマインフォームドケア(TIC)
患者の背景に「トラウマがあるかもしれない」と前提して接する支援姿勢 - 感情調整スキル訓練(DBT、ACTなど)
感情の波に飲まれず、自分の行動を安定させる技法 - マインドフルネス・身体技法
呼吸や身体感覚への集中で過覚醒を鎮める - 薬物療法(補助的)
抗うつ薬・気分安定薬などを用いて、情緒の安定をはかる
当院での取り組みとご案内
「新宿駅 内科・心療内科クリニック」では、発達性トラウマが背景にあると考えられる不安障害や抑うつ状態、感情調整困難の患者様に対し、心理的背景に配慮した丁寧な診療を心がけています。症状に明確な理由が見つからない方や、繰り返す生きづらさに悩んでいる方は、お気軽にご相談ください。
まとめ
- 発達性トラウマは「幼少期の慢性的ストレス」が心と脳に影響した状態
- 大人になってからの不安・人間関係の困難・慢性的疲労感に関連
- 専門的な診断・心理療法・支援姿勢が重要
- 日常のつらさの奥に「発達性トラウマ」が隠れていることもある